短縮 URL は便利なツールですが、その手軽さゆえに思わぬトラブルを引き起こすことがあります。歴史を振り返ると、笑い話で済むものから国際的な問題に発展したものまで、短縮 URL にまつわる事件は数多く存在します。これらの事例は、短縮 URL を使う際の注意点を教えてくれる貴重な教材です。
まず紹介したいのは、ランダム生成された短縮 URL が意図せず不適切な単語になってしまう問題です。短縮 URL サービスの多くは、英数字のランダムな組み合わせでスラッグを自動生成します。 6 文字のランダム文字列を生成する場合、理論上は約 568 億通りの組み合わせが存在しますが、その中には偶然にも英語の卑猥な単語や差別的な表現が含まれる可能性があります。実際に、ある大手企業が公式キャンペーンで配布した短縮 URL のスラッグが、英語圏では非常に下品な意味を持つ 4 文字の単語と一致してしまい、 SNS で大きな話題 (と笑いの種) になった事例があります。この問題を防ぐため、現在の主要な短縮 URL サービスは「禁止語リスト」 (ブラックリスト) を実装し、不適切な文字列が生成されないようフィルタリングしています。しかし、言語は無数にあるため、すべての言語の不適切な単語を網羅することは事実上不可能です。日本語のローマ字表記で不適切な意味になるケースもあり、多言語対応のフィルタリングは短縮 URL サービスの永遠の課題です。
2011 年に起きた「リビアドメイン事件」は、短縮 URL の地政学的リスクを浮き彫りにしました。 bit.ly や goo.gl の成功に触発され、多くの短縮 URL サービスがリビアの国別コードトップレベルドメイン `.ly` を採用しました (bit.ly 、 ow.ly 、 sn.ly など) 。しかし、 2010 年にリビアのドメイン管理機関が、イスラム法に反するコンテンツへのリンクを含むとして `vb.ly` というドメインを没収する事件が発生しました。この事件は、特定の国の TLD に依存する短縮 URL サービスが、その国の法律や政治的判断によって突然サービスを停止させられるリスクがあることを世界に知らしめました。 bit.ly 自身もこのリスクを認識し、代替ドメインとして `j.mp` を確保しています。インターネットガバナンスの書籍は Amazon でも探せます。
政府機関や公的機関が短縮 URL で失敗した事例も少なくありません。 2013 年、米国のある連邦政府機関が公式プレスリリースに記載した短縮 URL が、リダイレクト先の設定ミスにより、まったく無関係な個人ブログにリンクしていたことが発覚しました。プレスリリースは数千のメディアに配信された後だったため、修正が追いつかず、個人ブログのサーバーが政府機関からのトラフィックでダウンするという二次被害も発生しました。日本でも、自治体が防災情報の短縮 URL を印刷物に記載した後、短縮 URL サービスの仕様変更によりリンクが無効化され、災害時に情報にアクセスできなくなるリスクが指摘されています。これらの事例から得られる教訓は明確です。公的機関や重要な情報発信には、外部の短縮 URL サービスに依存せず、自組織のドメインで短縮 URL を運用すべきだということです。
サービス終了による大規模なリンク消失も、短縮 URL の歴史における重大な事件です。 2009 年に人気を博した短縮 URL サービス「 tr.im 」は、資金難を理由に突然のサービス終了を発表しました。数百万の短縮 URL が一夜にして無効化される危機に直面しましたが、ユーザーの猛反発を受けてサービスは存続することになりました。しかし、この騒動は「短縮 URL サービスが消えたら、そこで作られたすべてのリンクが死ぬ」という根本的な脆弱性を世界に認識させました。 Google の goo.gl 終了 (2019 年) は、テック大手ですら短縮 URL サービスを永続的に維持する保証がないことを証明しました。この問題への対策として、 Internet Archive は「 Wayback Machine 」で短縮 URL のリダイレクト先を保存するプロジェクトを進めていますが、すべての短縮 URL をカバーすることは技術的に困難です。短縮 URL を使う際は、「このリンクが 10 年後も機能しているか」を常に意識し、重要なリンクには自組織のドメインを使用することが、歴史が教えてくれる最大の教訓です。