`.tv` はツバル、 `.io` はイギリス領インド洋地域、 `.ai` はアンギラ。これらの国別コードトップレベルドメイン (ccTLD) は、本来その国や地域のために割り当てられたものですが、英語の単語や略語と偶然一致したことで、まったく異なる用途に使われるようになりました。この「ドメインの転用」は、小さな国に莫大な収入をもたらす一方で、予想外の問題も引き起こしています。
`.tv` の物語は、インターネット時代の最も劇的な「棚ぼた」の 1 つです。南太平洋に浮かぶ人口約 1 万 1,000 人の島国ツバルは、 1990 年代後半にインターネットの普及とともに、自国に割り当てられた `.tv` ドメインが「テレビ」を連想させることに気づきました。 2000 年、ツバル政府はカリフォルニアの企業 Verisign (当時は dotTV) に `.tv` ドメインの運営権を 12 年間で 5,000 万ドル (約 55 億円) で売却しました。この金額はツバルの GDP の約 3 分の 1 に相当し、この収入でツバルは国連への加盟費用を賄い、首都フナフティの道路を舗装し、国内初の電話回線を整備しました。 2 文字のドメインが国家の近代化を支えたという、インターネット時代ならではの逸話です。現在、 `.tv` ドメインは Twitch (twitch.tv) をはじめとする動画配信サービスに広く使われており、ツバルは年間約 500 万ドルのロイヤリティ収入を得ています。地理の雑学に関する書籍は Amazon でも探せます。
`.io` ドメインの人気は、テック業界の文化と深く結びついています。 `.io` は「イギリス領インド洋地域」 (British Indian Ocean Territory) に割り当てられた ccTLD ですが、プログラマーにとって「 I/O 」は「 Input/Output 」 (入出力) を意味する基本的な技術用語です。この連想から、 `.io` はテック系スタートアップやオープンソースプロジェクトの定番ドメインとなりました。 GitHub Pages (github.io) 、 Socket.IO (socket.io) 、 Figma の初期ドメインなど、テック業界の主要サービスが `.io` を採用しています。しかし、 `.io` ドメインには政治的な問題が潜んでいます。イギリス領インド洋地域は、 1960 年代にイギリスがチャゴス諸島の住民を強制退去させて設立した軍事基地であり、国際司法裁判所は 2019 年にイギリスの主権を否定する勧告的意見を出しました。チャゴス諸島がモーリシャスに返還された場合、 `.io` ドメインの管理権がどうなるかは不透明であり、 `.io` に依存するテック企業にとっては潜在的なリスクとなっています。
`.ai` ドメインの急成長は、人工知能ブームと完全に連動しています。カリブ海の小さな島アンギラ (人口約 1 万 5,000 人) に割り当てられた `.ai` は、 2022 年の ChatGPT 登場以降、 AI 関連企業からの登録が殺到しました。アンギラ政府の発表によると、 `.ai` ドメインの登録収入は 2023 年に約 3,200 万ドルに達し、政府歳入の約 20% を占めるまでに成長しました。 Stability AI (stability.ai) 、 Perplexity AI (perplexity.ai) 、 Character AI (character.ai) など、 AI 業界の主要プレイヤーが `.ai` を採用しています。アンギラにとって、 AI ブームは文字通りの「デジタルゴールドラッシュ」です。ただし、この収入は AI ブームが続く限りのものであり、ブームが去れば登録数が減少するリスクもあります。
短縮 URL サービスと ccTLD の関係も見逃せません。 `.ly` (リビア) は bit.ly 、 ow.ly 、 sn.ly など多数の短縮 URL サービスに採用されています。 `.gd` (グレナダ) は is.gd に、 `.gl` (グリーンランド) は goo.gl に使われていました。これらの小さな国や地域は、ドメイン登録料という形でインターネット経済の恩恵を受けていますが、同時にリスクも抱えています。前述のリビアの `.ly` ドメイン没収事件のように、その国の法律や政治的判断によってドメインが突然無効化される可能性があるのです。国別ドメインの「意外な使われ方」は、インターネットのグローバルな性質と、国家主権のローカルな性質が交差する、興味深い現象です。